オフィス移転で見えた大切なこと─違和感を見逃さないワンフロアオフィス

オフィス移転というテーマを通して、改めて向き合ったのは「組織をどう在らせたいか」という問いだった。エリア、コスト、格、ワンフロア──どれも正解になり得る中で、高橋が最後まで手放さなかったのは、違和感を見逃さず、顔が見える距離でチームをマネジメントできる環境だったという。ワンフロアにこだわる理由、格を下げないという判断、そして池袋という街への愛着。数字では割り切れない葛藤の末に選んだ決断から見えてきたのは、オフィスを起点に組織の基準や文化が形づくられていくプロセスだった。

危険だと分かっていて話す理由

オフィス移転の話って、まだ確定していない未来の話じゃないですか。今このタイミングで話して、もし1ヶ月後や2ヶ月後に話が流れたら、「あれ、どうなったの?」ってなるし、ちょっと恥ずかしいなって気持ちもあります。でも、それでも話そうと思ったのは、今まさに葛藤のど真ん中にいるからです。
完成した意思決定よりも、悩んで、迷って、考え抜いている途中の思考こそが、経営のリアルだと思うんですよね。だから今日は、確定ベースの話じゃなくて、あくまで“今の思考”として聞いてもらえたら嬉しいです。

 

出ていくことが確定している現実

まずファクトとして、僕らは今のビルを出なきゃいけないんです。今いるビルは再開発で壊されることが決まっていて、2027年の春には確実に退去になります。これは「居たい・居たくない」の話じゃない。もう強制的に次を決めなきゃいけない状況です。
今が2025年の終わりなので、実質1年ちょっとしか猶予がない。このまま何も決めなければ、普通にオフィス難民になる。そういう、じわじわじゃなくて、明確な期限がある状況に置かれたことで、移転は「検討事項」じゃなくて「必須事項」になりました。

まだ10ヶ月しか経っていないオフィス

今のオフィス、実は移転してからまだ10ヶ月くらいなんです。分かってはいたけど、やっぱり早すぎるなって感覚は正直あります。ただ、抜きで入ったので条件はかなり良かった。池袋でこの広さ、この賃料は、普通ありえない。
一方で、電気が暗すぎて設備を外したり、想定外のコストもかかりました。オフィスって、表から見えないお金がめちゃくちゃかかるんだなって、身をもって知りました。だからこそ、次は「仕方なく」じゃなくて、「納得して」決めたい。そんな気持ちが強くなっていきました。

池袋に残りたいという前提

次を探すなら、まず池袋で、と思いました。僕自身、高校生の頃から池袋に入り浸ってきて、この街で時間を過ごしてきた。会社としても、ここを拠点に積み上げてきた歴史があります。
それに、社員の通勤動線や、お客さんの来やすさを考えても、池袋は合理的なんですよね。歩きや自転車、1〜2駅で来ている人も多い。ターミナル駅で乗り換えもしやすい。感情だけじゃなくて、実務的にも「まず池袋で探す」は自然な判断でした。

格を上げたいという正直な気持ち

これは正直な話なんですけど、業績が伸びてきている中で、「社格は上げたい」と思いました。今よりグレードの低いオフィスに行く選択は、どうしても受け入れられなかった。
お客さんから見たら、正直どこで仕事していても関係ないかもしれない。でも、働いている僕ら自身がどう感じるかは別です。頑張っているのに、ステップダウンしている感じがする移転は、モチベーションにならない。成長している実感を、空間でもちゃんと感じたい。それは、見栄じゃなくて、前向きな自己評価だと思っています。

ワンフロアだけは譲れなかった

エリアよりも、家賃よりも、何よりも優先したのがワンフロアでした。僕はこれを「パワーマネジメント」って呼んでいます。全部見渡せる。ちょっとした違和感にも気づける。何かあった時に、すぐ分かる距離感。
部署が分かれると、絶対に見えなくなる。カスタマーサポートはこっち、本部はこっち、って分けた瞬間に、セクショナリズムが生まれる。僕らは一つのサービスを、全員で育てている会社だからこそ、同じ空間にいる意味がある。ここだけは、絶対に譲れませんでした。

池袋で300坪ワンフロアが存在しない問題

ただ現実として、池袋で300坪以上のワンフロアって、本当に存在しないんです。空室率も低くて、空いたとしても内部増床で埋まる。市場に出てこない。
探せば見つかる、じゃない。選択肢がほぼない中で決めなきゃいけない。オフィス探しって、想像以上に「運」の要素が強いなと感じました。いい物件と出会えるかどうかは、努力だけじゃどうにもならない部分も大きいです。

新築ビルに感じたモヤモヤ

新築で、駅直結で、条件だけ見たら申し分ないビルも見ました。でも、正直まったくテンションが上がらなかった。「広がってない」「満足してない」って感覚が残ったんです。
移転って、本来ワクワクするものじゃないですか。でも、そこにはゴール感がなかった。逆にその違和感が、「この移転をどう位置づけるか」を考えるきっかけになりました。ここはゴールじゃない。通過点として捉えられるかどうか。それが重要でした。

憧れのビルと天井高の壁

昔から入りたいと思っていたビルにも行きました。中に入れた時は嬉しかった。でも、天井が低かった。
数字以上に、空間の体感って大きい。今のオフィスが広く感じる理由に、天井高があると気づいてしまった以上、そこを妥協する選択はできませんでした。「憧れ」だけでは決められない瞬間でした。

四択を迫られた究極の判断

最終的に、選択肢は四つに絞られました。
家賃が重なるのを受け入れるか、池袋を捨てるか、古いビルに行くか、ワンフロアを諦めるか。
どれも完璧じゃない。でも、ワンフロアを諦める選択だけは、最初に消えました。そこは迷いませんでした。

重なるコストより失いたくなかったもの

家賃が重なるのは、正直もったいないです。でも、それを数字だけで判断するのは違うと思いました。
ワンフロアの一体感、格、成長ストーリー。それを失うリスクの方が、よっぽど大きい。これは「損」じゃなくて「選択」だと、自分の中で整理しました。

池袋で未来を見続けるという選択

池袋はこれから再開発が進みます。600坪、1000坪クラスのビルも視野に入ってくる。今はまだ通過点。でも「いつかあそこをワンフロアで借り切る」という目標を持てる場所にいることが大事だと思いました。
街への愛着も、野望も、まだ終わっていない。だから僕は、池袋で未来を見続ける選択をしました。

話し手

高橋 翼

株式会社アーラリンク代表取締役社長

2011年早稲田大学社会科学部卒業。通信事業の将来性と貧困救済の必要性を感じ2013年にアーラリンクを創業。